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紹介したい人がいる、と、鈴をあの公園に連れ出した。あの公園――もちろん、涼介さんがいる公園だ。
いつものようにフェンスの外側に自転車を停めて中に入る。すでにコートの中にいた涼介さんがそれに気付き、満面の笑顔をよこしてきた。
「あの人がオレの紹介したい人。友達であり、恩人でもある大事な人だよ」
涼介さんに手を振りながら、鈴に言う。鈴は涼介さんに向って軽く会釈をして、オレの顔を見上げた。
「恩人?」
「うん。臆病だったオレの背を押してくれた人」
話しているうちに、涼介さんが歩み寄ってきた。涼介さんはいつもの穏やかな笑顔だ。
「オッス、涼介さん。今日は約束を果たしに参りました!」
オレはそっと鈴の背中に手を添えて、涼介さんに向き合った。
涼介さんと約束していのだ。鈴ときちんと仲直りした暁には、必ずここへ連れてくる、と。
「この子がオレの彼女、です」
涼介さんは嬉しそうに大きく頷くと、鈴に向って右手を差し出した。
「はじめ、まして」
鈴は一瞬目を丸くして、それでもすぐに笑みを返してその手を握った。
「はじめまして。武市鈴、です」
「鈴ちゃん。涼介さんは耳が不自由なんだ」
それを告げるのにも何の抵抗も感じなかった。鈴は涼介さんをそういう理由で遠ざけたりはしないだろうと確信しているから。鈴は小さく微笑んで「うん」と頷いた。
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