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『ところで、アレ、なに?』
涼介さんはそう記して、フェンスの外側に止めたオレの自転車をペンで指した。それを目で追って、オレは鈴と顔を見合わせて苦笑する。
「あれ、オレが鈴ちゃんにあげたぬいぐるみ。持って帰ってもらうの悪いから、オレが運ぶの」
オレの自転車のキャリアには、くまのポンさんがお座りの形で縛り付けてある。
「わたし、自分で運ぶからいいって言ったんだけど」
「いいんだよ。半分は無理に貰ってもらうようなものだから」
「そうでもないよ?」
「いいって。それにあれ積んで帰るの、けっこう恥ずかしいだろ」
「がまんするよ、それくらい。透、足だってまだ完治してないのに」
「大丈夫だって。鈴ちゃんって、意外に心配症だよな――」
コンコン、という音が会話を遮る。涼介さんがどこか呆れ顔でオレたちを眺めていた。どうやら、コンコン、という音は涼介さんがボードを軽く叩いた音だったようだ。
『オレおいて二人のセカイにはいらないでください』
と書かれたボードをオレと鈴の前に突き付けると、涼介さんはわざとらしく大きなため息を落とした。
「そ、そんなつもりは――ごめんなさい!」
鈴が顔を赤くして頭を下げる。その隣で、オレはフフンと不敵に笑って見せた。
「羨ましいんだろ、涼介さん」
直後、涼介さんがボードでオレの頭を叩いた。ガツン、と高い音が頭に響く。
「いってぇっ! 今本気で叩いたろ?」
『マジでムカついた!』
そう書いて見せられたけど、涼介さんのその顔は笑っている。
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