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「ね、ね、透。お姉さんたち、付き合ってるの?」
オレのシャツを引っ張り、鈴がこっそりと訊いてくる。うーんと眉を寄せた。
愛の気持ちはどうやら確かみたいだけど、涼介さんの方は知らない。
「愛の片想い止まりじゃないかな――」
「こら、そこっ!」
愛の鋭い声が飛んで来る。ついビクリと肩をすくませた。
「聞こえてるよ。勝手な憶測するなー」
愛が口を尖らせながらツカツカと歩み寄って来て、オレの頭を容赦なく叩いた。
そんな愛の背後では、水分補給を済ませた涼介さんが、ボールを手にしてコートの中に向かっている。
バンバン、と小気味良いバウンド音が響き出す。
「あのね、片想いだろうがなんだろうが関係ないの。今は傍にいられるだけでいいんだから」
鼻先にビシッと人差し指を突き付けながら、愛がオレを睨みつける。その迫力に思わず身を引いてしまった。
「や……愛の口からそんな殊勝な言葉が出てくるとは思わなかった。もっと強引に迫りまくってるのかと……」
「なにィ?」
「――でも、その気持ちよくわかります」
一発触発になりかけた姉弟の間に、静かな声が割り込んできた。
「傍にいられるだけでいいって気持ち、よくわかります」
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