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もう一度そう繰り返す鈴を、愛は目を瞠って見返した。やがて、大きく息をつき、力の抜けた笑みを浮かべる。
「ホント、いいコね……透」
ポン、と肩を叩かれ、オレは思わず姿勢を正した。
「鈴ちゃんのこと大事にしなさいね。泣かせたらねーちゃんが許さないから」
愛はオレの背中を叩くと、涼介さんのいるコートの中へと駆け出して行った。そしてそのまま涼介さんからパスを貰い、シュートを放ちにゴールへ向かう。素人ながら、持ち前の運動神経のおかげか、けっこう様になっているではないか。
その姿をなんとなく見やりつつ、オレは小さくため息をついた。
「怖ぇ姉貴」
「でも、いいお姉さんだよね」
クスクスと笑っている鈴を見下ろし、決意を固めるように、オレは体の横に下ろした手をギュッと握りしめた。
「……もう泣かせたりしないから」
「え?」
聞こえなかったのか、鈴がきょとんとした顔で見上げてくる。
オレは小さく首を振った。
「何でもないよ。――ほら、オレたちも入ろ?」
鈴の手をとり、コートの中へ行こうとすると、鈴が驚いたように身を引いた。
「え! でも透、足――」
「大丈夫! 絶対無理はしないから」
ぐいぐいと引っ張っていくと、鈴も苦笑しながら、諦めたようにオレの手を固く握り返してついて来る。
コートの中では、涼介さんと愛が、満面の笑顔でオレたちを待っていた。
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