第1話 晴れ渡る空

15/19

29人が本棚に入れています
本棚に追加
/155ページ
 オレが初めて鈴を見たのは、中学二年生の時の、全中の陸上競技大会だった。  オレは百メートルの選手に抜擢され、初めての大きな大会に緊張していた。足が震えそうになるのを押しとどめながら、なんとか自分を落ち着かせようと深呼吸を繰り返していた。  そんな時、先にトラックで行われていた競技がふと目に入った。女子の百メートルハードル。  ――その時、どうしてそこに目がいったのかは、今でもわからない。スタート位置に立つ一人の女の子が視界に飛び込んできた。  その子はピンと背筋を伸ばし、真っ直ぐに前を見つめていた。髪は男子に負けないくらいのショートヘアーで、その横顔がはっきりと見えた。前方を見据えたまま揺るがない瞳、キュッと固く引き締めた口許。そこから彼女の意思の強さが窺える気がした。  綺麗だと思った。  その瞬間、彼女に心を奪われた。さっきまでの緊張とは別のドキドキを感じて、彼女から目が離せなかった。  オレは彼女のレースが終えるまでずっと彼女を見つめ続けた。走る姿も、ハードルを超える時の姿勢も、競技が終わってからの緊張が解けた笑顔も――何もかもが目に焼き付いた。
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加