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この日、オレは部活の練習の場を借りて、高跳びを実施させて貰うことにしたのだ。怪我が治ってからの初めての跳躍だ。
もう既に部活は引退した身だけど、夏休み明けから、時々リハビリの為に少しずつ練習に参加させてもらっていたのだ。その甲斐もあってか、怪我の回復は医者から言われたよりも早かった。今では筋力もほとんど戻り、普通に運動するのになんの差し支えもない。
後はただ、ジャンプだけ。
「しっかし、そんなこと黙ってるとは友達がいのないヤツだな」
オレは苦笑しつつ、肩を解し始めた。準備運動の途中だったのだ。
「別に、わざわざ人に知らせることじゃないだろ。ただちょっと跳ぶだけだし」
「でも、鈴ちゃんにはちゃんと言うんだ?」
「それはまあ……というか。オレが跳ぶのとおまえがここに来るのに何の関係があるんだよ? しかもそんな格好で。見学なら外で充分だろうに」
慎吾は膝を屈伸させながらニヤリと笑った。
「俺も一緒に体動かしたくなってね。勉強ばっかじゃ腐りそう」
それにさ、と言いながら、慎吾がいきなりオレの肩をガバッと抱いて、無理矢理体を観客席の方へ向かせた。
「久し振りに、俺の雄姿を果歩に見せてやりたいなぁと思ってな」
軽く手を上げる慎吾に観客席から応えて手を振っているのは、慎吾の彼女の果歩ちゃんだ。そして、その隣には鈴がいる。彼女の顔に浮かんでいるのは穏やかな微笑。
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