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「――フゥッ」
視線を落とし、深く息を吐いた。入念に足首を回しながらもう一度息を整える。
「二条、気楽に行けよー」
オレの緊張を察したコーチが声をかけて来た。振り向くと穏やかに笑っているコーチと目が合った。これまでの、競技の前の厳しい目つきではない。
チラリと周囲を見れば、練習をやめてこちらに目を向けている後輩たちも、どこか和やかなムードだ。
跳べるか跳べないか、記録は関係ない。
ただ純粋に、オレが再び跳ぶことを楽しみにしていてくれる……そんな温かな期待を感じ、つい顔が緩んだ。
「――よし!」
ピシャリと頬を叩いて前を見据えた。
余計な緊張が消え、体が軽くなった気がした。
……大丈夫だ。何も問題はない。もう何も起きはしない。
跳べる。
顔に自然と微笑みが浮かぶ。
あのバーを越えれば、また新しいスタートが切れるような気がした。
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