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ふと観客席を見やる。
そこには真っ直ぐに自分を見つめてくれている鈴の姿がある。今日この瞬間を見に来て欲しいと言ったのはオレだ。
再度バーを見据えた。
――跳ぶ。
鈴の気持ちを一緒に、あのバーの向こうへ連れて行く。
トントンと軽いリズムをとるように助走を始めた。少しずつその歩幅を縮めていく。
「透ーっ!」
微かに聞こえて来たのは、間違いなく彼女の声だ。それが力となる。
思い切って踏み切る。体が宙に浮いた。
肩越しにバーを見やる。余裕のある位置に見えるそれ。
――越えた!
確かに掴んだ確信と共に、オレの目に空が映った。
どこまでも透き通った、深く青い空が映った。
<完>
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