第1話 晴れ渡る空

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 その日の夜、親戚の家を訪ねた。  同じ年の従兄、高城浩太は、違う中学校で透と同じように陸上部に所属していた。そして幸運な事に、浩太の中学は、あのハードルの女の子と同じだったのだ。当然浩太は彼女を知っているはず。 「ハードルのかわいい子」と、オレはそう浩太に説明した。それだけで浩太はすぐに誰のことを指したのかわかったようで、「武市鈴(たけちすず)」という名前を教えてくれた。  話していてわかった。どうやら浩太はその武市鈴のことを好きなようだった。でも、それを直接確かめることはしなかった。どのみち、自分が入る隙はない。彼女はオレのことを知りもしないのだ。  それから、何度か競技会の度に鈴を見かけた。話しかけることはしなかった。一体何を話せばいいかわからなかったし、何より、鈴の姿を見ることさえできればそれで十分だったのだ。純粋な憧れに近かったのかもしれない。  中学三年になり、部活を引退してからも、鈴の話は浩太から聞くことが出来た。浩太を通して鈴と繋がっていられる――そんな気がして、それだけでよかった。  だが、その年の秋が深まる頃。  浩太が事故で死んだ。あまりに突然の死だった。  従兄であると同時に、大事な親友だった浩太を失くした悲しみは大きかった。もう永遠に、一緒に語り合うこともふざけ合うこともできないなんて……。  ふと、鈴のことを考えた。  浩太は鈴に自分の想いを打ち明けていたのだろうか――。  でも、それを確かめる術はもうなかった。  そして、それきり鈴との繋がりは断たれてしまった。  高校に入学するまで。
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