第1話 晴れ渡る空

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「――透? どうかしたか?」  急に黙り込んでしまったオレの顔を、慎吾が怪訝そうに覗きこむ。慌てて笑顔を作った。 「んー、なんでもない。ちょっと昔を思い出してた」  昔? と首を傾げる慎吾には軽く笑顔だけを返した。慎吾には浩太の話をしたことがない。死んだ従兄がいることは話したかもしれないけど、その従兄と鈴の間に繋がりがあったことは話していなかった。  話したくなかった。浩太と自分と鈴の間には、誰にも入って欲しくない。例え、それが親友であってもだ。  そう思ってしまうことにほんの少しの後ろめたさを感じながら、ポンと慎吾の肩を叩いて立ち上がった。 「たまにはおまえも自分に正直になりなよ」 「あん?」 「果歩ちゃんに、ちゃんと好きって伝えてるか? でないと、そのうち愛想尽かされるかもよ?」 「な、なにを、おま……っ」  顔を真っ赤にして慎吾が立ち上がる。体格もがっしりとしていて、どちらかというとごつい感じの慎吾が慌てふためく様は、どこか可愛らしくもあり、滑稽だった。純情な親友をからかうのは面白い。 「さあて、休憩終わりー。じゃーな」 「おい、こら、透!」  慎吾に笑いながら手を振ってグランドに戻る。  一歩一歩足を進めながら、気持ちがどこか沈んでいくのを感じた。  浩太を思い出したせいかもしれない。そして、浩太と鈴の切ない恋を思い出したからだ。  実ることのなかった淡い恋。 「……今さら」  自嘲するように呟く。  今さらそのことで心を痛めても、どうにもならないことなのに。  そう、浩太は鈴が好きだった。そして、鈴も浩太が好きだったのだ、ずっと何年も浩太のことを忘れられないほど。  二人の気持ちを思うと、切なくて胸が苦しかった。同時に、二人の間に、永遠にオレが入ることができない絆があることが、少し悔しいのだ。そんな身勝手な嫉妬を抱える自分が嫌だった。  だけど。  気持ちを切り替えて前を向いた。    だけど、今は違う。鈴は浩太ではなく、ちゃんとオレを見てくれている。今はオレだけを見ていてくれる。  それ以上に何を望むというのだ。 「――よし!」    自分の頬をぴしゃりと両手ではさみ込むように叩くと、一気にグランドに向って駆け出した。  今はとにかく、目の前にある目標を達成するだけだ。
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