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* * *
「休憩時間過ぎてるぞー」
練習に戻った途端、コーチの硬い拳骨がゴチッと頭に落ちてきた。
「いってぇ……ほんの二分ぐらいでしょー?」
「口答えするな。お前がこんなんじゃ、後輩に示しがつかんだろうが」
「へーい、どーもすんませんでしたぁ」
口だけの謝罪に、コーチは呆れたような顔で息を吐く。そんなオレたちのやりとりに、周りの後輩たちは声を押し殺して笑っていた。
普段、鬼と恐れられているこのコーチだけど、実際はそう怖くもない。と、そろそろ後輩も気付く頃だろう。
「――ったく。よくストレッチして始めろよ」
「了解」
びしっと敬礼の姿勢をとってみせた。コーチは何か言いたそうに口を開きかけたけど、結局、何を言っても無駄とばかりに、小さく首を振りながら離れて行った。
オレはそれを見送ると、気持ちを切り替えてストレッチを始めた。
ふざける時はふざけても、やる時はちゃんとやる――当たり前のことだけど、大事なことだ。
オレが個人練習に入ると、空気を読んでか、いつも気安く接してくる後輩たちも、オレから距離を置く。集中を邪魔することがないように配慮してくれているのだ。その心遣いが有難かった。
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