第1話 晴れ渡る空

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 十分に体をほぐした後、いつものようにスタート位置に着く。その瞬間、周囲の動きがピタリと止まったのがわかった。注目されているようだ。  特に、前方からオレを見ている一年の後輩の一人は、いつも熱心にオレの跳躍を見ていた。彼はオレと同じように高校から走高跳に転向した選手だ。だからだろう。  参考にしてほしい、とか思いあがったことは思わないけど、オレのジャンプを見て何かを感じたりしてくれるのなら、それは素直に喜ばしいことだと思う。    一度深く深呼吸をする。それだけで余計な思考が消えた。   軽くリズムを取るように助走を始める。  ――体が軽い。いい感じだ。  踏切りまで、3、2――    バチンッ!  突然、ゴムが切れたような音とズンとした衝撃が体を走った。    ……え?    何が起こったかわからなかった。  跳ぶために踏み切った筈のオレの身体は、宙を舞うことなく、ぐらりと傾いて地面に叩きつけられた。 「二条っ!」  コーチの怒号が遠くから聞こえた。慌てたように駆け寄ってくる姿も見える。  周囲が騒然となる中、オレは半身を起こして茫然と自分の足を眺めていた。  右足、動かせない。   「あ……」    すこしずつ、理解してきた。     バチン――あの音と衝撃は、この足のアキレス腱が切れた音だったのだ。  
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