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あ、飛行機雲、二つ――。
視界一杯に空が広がる。
それは永遠とも思える刹那の浮遊感――。
瞬きする間もなく、体が背中から深くマットに沈んだ。反動で一回転した体をそのまま横たえ、遥か高い空を見ていた。
青い空に並行して走る二筋の飛行機雲。線路みたいだな……などとやけに子供じみたことを思う。
「――透さん、大丈夫ですか?」
その声にようやく体を起こした。計測していた後輩部員が駆け寄ってきている。いつもならすぐ体制を立て直すオレが、いつまでも起き上がらないことが心配になったのだろう。
「ごめん、へーき」
軽く笑ってマットを降りた。そこで改めて自分が跳び越えたバーを確認する。
バーは少しもぶれていない。
「軽くクリアですね、透さん」
「おう、楽勝!」
冗談めかしてガッツポーズを作って見せた。後輩は笑いながら元の場所に戻って行く。
オレはもう一度飛び超えたバーを見やった。今超えた高さは言うほど余裕の持てる高さじゃない。でも、何の問題もなく跳ぶことができた。
――うん、どうやら絶好調だ。
再び空を見上げる。
二本の飛行機雲はまだ鮮やかだった。
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