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あの瞬間。
アキレス腱が切れたあの瞬間、痛みではなく、ただ何かにぶつかったかのような衝撃を感じただけだった。本当に、何が起こったのかわからなかった。
時間差でじくじくと訴え出した痛みも、耐えられないというほどのものでもなく、すぐにでも立って歩けそうな気がした。だけど、意に反して、足は自由にならなかった。
その時になって、ようやく事態の深刻さに気付いた。
痛みに気を向けるより先に、まず明後日に控えた競技大会のことを考えた。
出場できない。
――跳べない。
コーチや部員たちが自分の周りで騒然とする中、ただ空を仰いだ。
いつも近くに感じていた空が、ひどく遠かった。
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