第2話 涙雨

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 母が行った後、もうひと眠りしようと目を閉じた。起きても何もすることがない。時間を持て余して、色々と余計な事を考えてしまいそうで怖かった。  でも、陽光に満ちあふれた室内で、一度しっかり覚醒した脳はなかなか眠りに落ちようとしない。寝よう、寝ようと思うほど頭は冴えていくようで、結局観念して、ため息と共に身を起こした。  慣れない松葉杖は面倒で、片足ケンケンでリビングに移動した。ソファーに片足を伸ばして座る。たったそれだけの行動で疲れてしまって、思わず長い息をついた。  もどかしいな、この足……。  足だけじゃなく、何もかもがうまくいかない気がして、どうしようもなく気が滅入った。  アキレス腱断裂――コーチの車で運ばれた病院のドクターからそう診断された。  全治六カ月。  そう告げられた時も、オレは「はあ……」としか返事が出来なかった。たとえ全治六カ月が全治三日だったとしても、大会に出られないのなら同じだ。ショックはもう通り越していた。処置される間も、ただ無感動にそれを眺めていた。  松葉杖を渡され、慣れない歩行に苦労しながら、じわじわと苛立ちが募っていく。  あんなに頑張ったのは何のためだったのだろう?  毎日の練習は何のためだったのだろう。――少なくとも、こんな怪我をするためではなかったはずだ。  絶望よりも惨めさを感じて、そんな自分にまた苛立ちが募った。  ……鈴は。  鈴は、こんなオレをどう思うのだろう。
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