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オレはテレビを消して、手元にあった新聞を手に取った。――が、まともに読む気にはならず、バサバサと乱暴にめくって、結局すぐに脇に置いた。
「愛ー、なんか漫画本持ってきて」
「嫌よ」
にべもない返答にハアっとため息を返す。
「あのさ、怪我人に優しくしよーとか、そういう気はないわけ?」
「優しいでしょーよ、十分。大学休んで病院まで車出してやるってんだから。それとも何? あんた、一人で杖ついて行くかい?」
「うっ……」
病院までは、通常なら歩いて行ける距離でも、この不慣れな松葉杖では辛いものがある。しかも、足はまだ応急処置程度しかされていない。
「……すんませんでした」
「わかればよろしい――透」
「ん? ――んぐっ!?」
振り向いたオレの口に、グイッと何かが押しこまれた。
「少しぐらい食っとけ」
「んんー?」
口からはみ出た分を手に取ってみれば、それは大きなあんぱんだった。
「……ほーお(どーも)」
口に入った分をもぐもぐと噛みながら、ぺこりと頭を下げる。愛は一緒に持ってきたカップをテーブルに置くと、満面の笑顔を浮かべた。
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