29人が本棚に入れています
本棚に追加
/155ページ
「ほい、コーヒー。うわあ、なんて優しいお姉ちゃんでしょうか」
「自分で言うなよ」
「あんたが言わないからでしょ。あ、そうだ。私も予定より早めに目が覚めたし、準備ができたらもう行こうか?」
愛に言われ、壁の時計を見やった。九時を回ったところだ。
「どっちでもいいよ」
連れて行ってもらう立場だ。時間の選択権は愛に任せることにした。
「おっけー。じゃあ、準備する。あんたも支度しなさいよ」
「おー」と返事を返すと同時に、インターホンが鳴った。
「お、誰か来た。あんた出てよ――って無理か」
愛は慌てて髪を手櫛で梳きつつ、衣服を整える。素早く身だしなみを整えるその技には感心だ。
宅配便か何かだろうな――そう思いながらあんぱんを頬張った。実のところ、空腹は感じていたのだ。このあんぱんは素直に嬉しく思った。
「――透!」
ひどく焦った様子で愛が戻ってきた。
「何?」
あんぱんを齧りながら首を傾げた。何をそんなに慌てているのだろう?
愛はがしっとオレの両肩を掴んで言った。
「透、落ち着いて聞きなさいよ」
「は?」
「彼女が来たわよ」
「彼女?」
「そう彼女。武市鈴ちゃんってコ。彼女、あんたの『カノジョ』でしょ?」
「え――」
オレの手から、あんぱんがぽろりと落ちた。
最初のコメントを投稿しよう!