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「――じゃっ、私は部屋にいるから。あ、透。時間なんて気にしなくていいからねぇ。受付12時半までだって。――それでは、鈴ちゃん。ごゆっくりどうぞー」
ご機嫌に手を振って、愛が部屋を出て行く。鈴は困ったような、半分強張った笑みを浮かべ、愛に会釈を返した。緊張している、というより、愛の異様なテンションに圧倒されている感じだ。
オレは愛が出て行ったことにホッと息をついた。鈴のためにお茶を出し、座布団まで用意してくれたことには感謝をするけど、そのまま居座られたらどうしようかと思っていた。早々に立ち去ってくれて良かった。
賑やかな愛がいなくなった後、改めて訪ねてきた鈴に目を向けた。これまでは愛がバタバタと動き回っていたため、まだゆっくりと言葉すら交わしていない。
ソファーに座るオレの正面に、テーブルを挟んで、制服姿の鈴がきちんと正座をして座っている。
――あ、どうしよう。緊張してきた。
自分の家なのに、そこに鈴がいるというだけで、妙にドキドキしてしまう。
とりあえず、気を落ち着かせるように大きく深呼吸をし、普段通りを心がけて笑った。
「ごめんね、鈴ちゃん。騒々しい姉貴で」
それまでどこか硬かった彼女の表情が、ようやく少し解れた。
「ううん、全然。綺麗なお姉さんだね。透、似てる」
「げ、似てないでしょ」
「似てるよ。笑った顔なんてそっくり。目尻がこう下がるところとか」
指で自分の目を下げて見せる鈴に苦笑した。確かに、昔からそれはよく人から言われてきたことだったけど、鈴から言われるとどうにも照れ臭い。
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