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「あ、そうだ。ごめんね、鈴ちゃん」
「え?」
「いや、俺だけこんな上に座って」
今の自分たちの位置関係を思い出し、見下ろす形になることを詫びた。鈴は首を横に振って笑う。
「全然。そんなこと気にしないでいいよ。――それより、わたしこそごめん。突然押し掛けてきて。これから病院行くんだったんだね」
「うん。手術するかしないか決めて来いって言われて」
「手術するの?」
「いや。しないことにした。しなくてもちゃんと治るんだってさ。人の体ってすごいよな」
他人事のように言って足を軽く持ち上げると、鈴は何とも言えない表情を見せた。慌てて話を変える。
「それより鈴ちゃん、どうしたの? 学校は?」
授業はとっくに始まっている時間だ。当然鈴がここに来れるはずはない。鈴は、まるで叱られた子どものように小さく俯いた。
「……抜けてきた」
「抜けて? どうして?」
「どうしてって」
鈴がキッと顔を上げた。その顔が少しだけ紅潮している。
「今日学校に行ったら、教室で透のことが噂になってた。怪我がどうとかって――だから、慌てて慎ちゃんのところに行って事情を聞いて……びっくりした。そんな大怪我してたなんて……そんなこと、わたし全然知らなかったから」
鈴はオレの目を探るように覗きこむ。
「……心配した。透、どうして昨日わたしに連絡くれなかったの?」
「どうしてって」
「……たしかに、わたしに連絡したってどうにもならないことだし、わたしが何かできた訳じゃないけど――それでも……他の人から聞かされるより、直接話して欲しかったと思う、よ」
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