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俯いてしまった鈴を見つめながら、ギュッと唇を噛んだ。
鈴の言うことはもっともだと思う。鈴はずっと、誰よりもオレを応援してきてくれた。怪我したこと、まずは彼女に一番に話すべきだった。実際、そうしようとはしたのだ。伝えようと思って、何度も携帯を手に取った。だけど、結局一文字も打てないままだった。
怪我したことを伝えて、大会出場が絶望的になったこと――それだけを簡潔に伝えればよかった。でも、できなかったのだ。
なんだか、自分がひどく惨めに思えて。
「……ごめん」
今も、その一言しか出てこない。
鈴はオレの言葉に、もどかしげに大きく首を振った。
「違う、ごめん。責めてるんじゃないの」
「え……?」
鈴は膝の上でぎゅっと手を握り締めた。
「違うんだ、透を責めたいんじゃなくて。あ……怪我が心配なのは、もちろん本当だよ。こんな時期だし、透がどんな気持ちでいるんだろうって考えたら……。でも、それだけじゃなくて、わたしが勝手に……怖くなったんだ」
意外な言葉だった。
「怖いって……?」
鈴は顔を上げてオレを見つめた。その顔が今にも泣き出しそうに見えて、ドキッとする。
「鈴?」
「……教室にね、いつも先にいるはずの透がいなかった。何かあったんじゃないかって不安に思ったところに、人から透の怪我のこと聞いて。わたし、何も知らなかったから、勝手にどんどん悪い方に想像して……動けないで苦しんでるんじゃないかとか、このまま学校に来なくなるんじゃないか、って……そんなわけないのに、そんなふうに怖くなった。顔見ないと安心できないって思った。だから、ここに来たのは……ごめん。透が心配だとか言いながら、本当は、自分が安心したかっただけ、なんだよね……」
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