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こんなに真っ直ぐな目で、彼女は何をどう思っているんだろう。まるで何かを探るように、じっとオレを見てくる。
だから、オレはあえて笑みを崩さなかった。
心の底にある失意を悟られることも、弱音を吐くことも、焦りを知られることも嫌だった。
たとえ見透かされていたとしても、情けない自分を曝け出したくはなかった。
彼女には、絶対に。
鈴が突然立ち上がった。
「え、鈴?」
鈴は何も言わないままテーブルを回って、オレのすぐ前に立った。そして真っ直ぐに見下ろして、言った。
「……透のバカ」
「えっ?」
不意に、オレの顔に影が落ちた。
「――!?」
……思考停止。
数秒経って、ようやく唇に触れているのが彼女のそれだとわかった。
そっと触れるだけのキスだ。だけど、身動き一つできなかった。
鈴がゆっくりと離れた。オレは戸惑ったまま鈴を見返し――ハッとした。
突然のことに驚いたし、胸が尋常でないくらいドキドキした。だけど、鈴の表情を見た途端、そんな浮かれた気持ちは消えた。
どうして……どうして鈴はこんなに泣きそうな顔をしてるんだ?
「す――」
名前を呼ぼうとすると、今度は頭をぐっと抱き寄せられた。再び、オレの思考は止まった。
ただ、温かいと思った。そして、柔らかい、と。この柔らかさは、一体……
「――!」
瞬間的に、今自分の顔に触れているものが何かということに思い当たり、慌てた。
「す……!」
言葉が詰まる。離れようと思ったけれど、体がすっかり硬直してしまってできなかった。
鈴はオレの動揺には気付かないようで、さらに腕に力を込めた。
「わたし、強くなるから。透が甘えられるくらい」
「え……」
鈴の静かな声に、少しずつ動揺が静まっていった。
鈴の鼓動が伝わってくる。――トクントクン……通常より早くも、規則正しい拍動。
初めて直に感じる鈴の心臓の音が、心に沁み入っていく。
慰められているような気がして、無性に泣きたくなった。
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