第2話 涙雨

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     *    *    *  翌日から、陸上競技の地区大会が始まった。本当なら、オレの晴れ舞台でもあったはずの日。  この日、オレは家で一人音楽を聞いていた。薄暗い室内で足を投げ出し、ただボーっとして大音量で流れる音楽に身を任せていた。  カーテンは開けなかった。空を見たくなかったからだ。  週が明けてすぐ、登校を始めた。慣れるまでの間は、朝は出勤ついでに母が車で送ってくれることになった。有難い。  大会の直前に足を負傷した悲劇の陸上選手は、既に学校中で有名になっていたらしく、松葉杖をつくオレは周囲の注目を浴びていた。好奇の目で見るやつもいるし、同情の目を向けてくるやつもいる。大多数が後者だ。だけど、好奇の目よりも、投げかけられる憐れみに満ちた優しい視線の方が、息苦しくて仕方なかった。  自分が同情を向けられるほど悲劇的な境遇にあるのだと思い知らされるようで、いたたまれない気持ちになった。  だけど、オレはそんな周囲のことなど、まるで気にならない素振りをした。たぶん、これはオレのプライドだ。
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