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机の上の資料をまとめてリュックに入れた。立ち上がろうとしたところで「それはそうと」と、ガラリと口調を明るくして、先生がオレに呼び掛けた。
「おまえ、あんまり武市に心配かけるなよ」
「――へっ?」
いきなりここで鈴の話?
「なんで?」
「おまえ、気付いてないだろう? 授業中な、武市よくおまえの方見てるよ。心配そうにね。あれ、無意識なんだろうなぁ」
「えっ?」
鈴が自分の方を見てる? 心配そうに?
「おまえはおまえで、ボーっとして外ばっかり見てるしな。それも無意識か?」
「え? いや……」
焦って頭を掻く。外ばかり見ているつもりなんかないけど――それが本当なら、先生の言う通り、無意識だ。
先生が苦笑する。
「まあ、いちいち生徒の交際に口出す気もないけどな。お互いの足を引っ張るような付き合い方はするなよ」
「や……それは大丈夫です。先生に心配されるようなことはないから」
「余計なお世話だったか?」
「そーですね」
オレは笑って立ち上がった。
「どうもありがとうございました」
「はいよ。――がんばれよ、二条」
「はい」
もう一度先生に頭を下げて、進路指導室を後にした。
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