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オレが鈴と一緒に帰ることができるのは、金曜の部活後だけ――つまり、部外者である鈴が練習を見学できる競技場での練習日だけだ。
黄昏の中、他愛のない話をしながら二人でのんびりと歩くこの時間が、何より好きだった。一人の時は鉛のように重い足も、彼女と一緒だとどこまででも歩けそうな気がするほど軽く感じた。
必要以上にはしゃぎたてない鈴の落ち着いた雰囲気が、練習の疲れも忘れるほど心地よかった。
しみじみと「好きだな」と思う。
本当にもう、どうしようもないくらい、彼女に参っている……。
隣を歩きながらも、ついじっと彼女を見つめてしまう。
鈴は決して派手な感じの女の子ではない。髪型もスッキリとしたショートヘアで、色も少しだけ茶色がかった黒。長い髪の毛を武器にお洒落を楽しむ女の子たちと比べれば、まったく飾り気はない。でも、十分にかわいい。
……うん、綺麗だ。
「――ん? 何?」
鈴が怪訝そうに首を傾げる。慌てて視線を逸らした。
「なんでもないよ」
鈴は「そう?」と不思議そうな顔でまた首を傾げた。
自分が見惚れられていたとは思いもしないんだ。そういう自覚は鈴には薄いようだった。
こういうところが少し不安だ、と思う。他の男子のそういう視線にも、鈴はまるで無頓着だから。かといって、「危機感を持て」というのは違う気もするし……と悶々とする。
オレ、鈴のこと好きすぎるだろ……。
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