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そういう話をしていたからか、いつもは素通りするグラウンドの前でつい足を止めた。奥の方で陸上部が練習しているのが見えた。
あの日以降、意識して見ないようにしていた光景を、オレはしばらくの間そのままじっと眺めていた。
「――2メートル9」
後ろからの慎吾の声に、振り向いた。
「何?」
「2メートル9……透、これ何の数字かわかる?」
オレは答えず、黙ったままグラウンドに目を戻した。わからなかったからではなく、すぐにピンときたからだ。慎吾がオレの隣に並んで、同じように練習風景に目を向けて続けた。
「今年のハイジャンの地区優勝記録だって。――なあ。おまえがあの日に出した自己ベスト、いくつだっけ?」
あの日の記録――。
脳裏に、その時の感覚が甦る。世界が変わって見えた、その感覚。
松葉杖を握る手に、ギュッと力がこもった。
「――2メートル15」
小さな声で答えた後、目を伏せて微笑った。
「っていっても、公式な記録じゃないしね」
オレはグラウンドから視線を背けて歩き出した。慎吾もそれに続く。
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