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「おまえ、器用そうに見えて、実はすげえ不器用だったのな」
「はぁ?」
「まあ、いろいろ複雑なのはわかるけどね」
慎吾が足を止めた。校門前のバス停に着いたのだ。慎吾はオレに向き直り、ピッと人差し指を付きたてた。
「そうそう、俺から一つアドバイス。『おまえもたまには自分に正直になってみたらいいよ』」
「!」
聞き覚えのある言葉にぐっと言葉に詰まる。慎吾は「じゃあな」とご機嫌に手を振って歩いて行った。
……なんだ、あいつ。
いつもからかわれていることへの仕返しか?
なんだか、いろいろなことが頭を巡って、頭の中がごちゃごちゃする。
進路のことや鈴のこと。
大会の記録と自分のベスト記録。
悔しくないのか、だって? それを聞いてどうするんだよ。
『そんなんだから鈴ちゃんも――』
鈴も? その後に言いたかったことは何なんだ?
『おまえもたまには自分に正直になってみたらいいよ』
「なんだよ、それ……」
胸の中がモヤモヤする。
「?」
突然、頬に何かが落ちてきて空を見上げた。
「……雨かよ」
ポツポツと振り出したそれに舌打ちを打つ。
まるで、心の中を映したような空模様だと憎らしく思った。
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