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バナナを食べ終えた愛は、にやにやしながら頬杖をついてオレを見ている。
この顔は……要警戒だ。
「――なんだよ、いきなり」
「いいじゃんいいじゃん。仲良くしてんの?」
「……おかげさまで」
これ以上相手するのはごめんだ。愛にくるりと背を向けて歩き出した。愛は構わず、声をかけてくる。
「今度またウチに連れてきなよー。ねーちゃん、あのコと仲良くなりたいもん」
ついため息をついてしまった。
鈴がお見舞いに来たあの日以来、愛はえらく鈴のことを気に入ってしまった。さかんに「かわいいかわいい」だの「あんな妹が欲しかった」だの言っている。嫌われるよりは良いと思うけど、どこか複雑だ。
「あ、そうだ。良いこと思いついた! あんたが欠席した分の勉強、鈴ちゃんにウチで教えてもらったら?」
「いい。今度学校で教えてもらう」
「なんでー。つまんないコ」
……無視。そのままリビングを出た。
「とーるー。あんまり彼女に心配かけちゃダメよー」
一瞬足を止めかけて、また歩き出す。
「……それも誰かに言われたな」
ぽつりと返した答えは、当然愛には届いていない。
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