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「ところで、順調みたいだね」
鈴が振った話題がオレの高跳びのことだと気付き、気持ちを切り替えて頷いた。
「うん。ここんとこ体が軽くてさ。この調子でいくと、自己ベストも更新できそうな気がするよ」
そう言うと、鈴は自分のことのように嬉しそうな顔をする。
「いいとこまでいけそう?」
オレは半月後に高校最後の競技大会を控えている。そのことを鈴は言っているのだろう。
一瞬の躊躇の後、オレは言った。
「実は狙ってる」
鈴はきょとんとした顔でオレを見上げた。
「何を?」
「何をって……」
はっきり言うのは、かなり照れてしまうんだけど。
「……優勝。そして全国」
どんな顔するだろう、と鈴を窺う。鈴はその言葉を飲み込むように目を何度か瞬かせた後、パアッと顔を輝かせた。
「そっかそっかぁ! うん、きっと透ならやれるだろうなぁ」
大袈裟じゃない口調でさらりとそんなことを言ってくれる。そして、握手を求めるように右手を差し出してきた。
「頑張れ。わたし応援するから」
オレはその手をガシッと握り返した。
「おう、任せといて!」
この場の勢いだけではない、確かな自信が胸に満ちてくる。
このコをもっともっと笑顔にしたい。オレが鈴を笑顔にするんだ――そう固く心に誓った。
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