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「もしもし」
『――透? おはよう』
聞こえてきた鈴の声に、つい頬が緩む。
「おはよう。こんな時間にどうしたの?」
『うん、別に用事はないんだけどね。透、今家で何してるかなって思って。退屈してるんじゃない?』
「あー、うん。まあ退屈だね」
苦笑交じりに答える。
「鈴ちゃんは今どこから?」
『廊下。ごめん、周りうるさいよね』
休み時間だ、それも当然。
『ねえ、透。今日はずっと家にいる?』
「うん。出る予定はないけど。雨やみそうにないし」
『そっか。じゃあ……今日帰りに透の家に行っていい?』
「――え?」
『あ、あのね。今日朝からいっぱい進路調査とかのプリントもらってね。週明け提出になってるのもあるから、早めに渡した方がいいかなとか思って。あ、都合悪かったらいいんだけど』
「い、いや、別に都合悪くないよ!」
慌てて答えた。鈴が来て悪いことはない。でも、次の瞬間あることを思い出し頭を抱えた。
そうだ……今日は愛も家にいるんだっけ。
鈴ちゃんウチに連れてきて、とニヤついていた愛の顔が頭に浮かび、ついため息が漏れる。それはしっかり向こうの鈴にも伝わったようだ。
『あの、本当に都合悪いなら……』
遠慮がちに声を沈ませる鈴に、焦って電話を持ち直した。
「あ、違う違う! ごめん、本当に大丈夫。来てくれるんだったら嬉しいよ」
そうだ。愛からからかわれようと、鈴に会えるのは喜ばしいことだ、うん。
「じゃあ、待ってるから。気を付けて来てね。授業頑張って」
『うん、ありがとう。じゃあ、またね』
同時に、向こうからチャイムの音が聞こえてくる。鈴がもう一度慌てたように「じゃあね」と言って、電話は切れた。
「……っしゃ!」
いつの間にか、さっきまでの憂鬱な気分は吹き飛んでいた。
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