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「無理して欲しくはないけど、来れそうだったら来て欲しいかな。――それで、これ。早速だけど、今日貰った進路調査の用紙渡しておくね。こっちのプリントを参考にって。提出期限は今度の月曜日。でも、透は登校が無理そうだったら、次に来た時でいいって沢村先生言ってたよ」
「ん。ありがとう」
鈴が机の上に並べたプリントを手にとって、ざっとそれに目を通す。
「就職……進学……うわ、今回のは結構細かいね。めんどくさ……」
ポロリと本音を零してしまった。鈴も小さく息を吐いた。
「だね、なんかいよいよって感じする。まだまだのんびりしてたかったのになぁ」
「同感」
オレはプリントを置いて、長い息をついた。
「ずっと自由にやってきたからなぁ。改めて進路とか、なんか頭痛い」
「透はなんやかんやでハイジャン一筋だったもんね」
「それしか取り柄がなかったからね。それすらも出来ないから、今のオレって何の取り柄もないってことかな」
つい、自虐的な事を口にしてしまった。鈴が微かに眉を寄せたことに気付いてハッとする。
あ……まずい。今のは失敗、かも。
誤魔化すように、バサバサと音を立ててプリントをまとめた。
「よし、っと。じゃあ、週末は進路についてじっくり考えるとしようかな。あ、そういえば、この前先生から大学の資料貰ってたっけ。沢村先生ね、わざわざオレ向けの学校纏めてくれたんだけど、それもまだよく見てなくてさ――」
「透」
鈴が小さな声で言葉を遮った。その声に、何故かビクリとしてしまう。悪いことを咎められたような、そんな気分になってしまった。
「な、何?」
鈴は真面目な顔でオレを見つめた。
「透。わたし、ずっと透に聞きたいことがあったんだけど……いいかな」
「聞きたいこと?」
その場の空気が変わったのがわかった。
鈴のあまりに真剣な目に、へらへらと笑っている自分がみっともなく思えてきて、オレは笑みを潜めた。
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