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大会に出られなくて無念だ。
足が痛くてたまらない。
松葉杖は使い辛くて嫌だ。
推薦の話が消えて悔しい。
そう言えば良かった? それを全部伝えていれば、鈴に余計な心配をかけずに済んだ?
――とてもそうは思えない。そんなマイナスだらけの感情をぶつけても、彼女がただ不快な思いをするだけだろ。それはオレが嫌だった。
「……心配かけてごめん。だけどオレは本当に……大丈夫なんだ。鈴ちゃんが辛い思いすることなんて、何もないのに」
そう答えるしかできなかった。鈴は顔を上げてオレを見返す。その傷付いたような顔に、胸がチクリと痛みを訴えた。
「わたしがこの前、怖いなんて言ったから?」
「――え?」
「教室にいるはずの人がいない――そのことが怖い、なんて言ったから、透はわたしに気を使っているの? わたしが高城のことを思い出したって」
「鈴」
「透は、わたしがまだ高城のことを忘れてないって思ってるんでしょう? だからわたしに心配かけまいって思って、無理して笑って――」
「違う!」
つい声を荒げて鈴の言葉を遮った。
浩太の名前が出てきて、激しく動揺した。
足の不自由さも忘れ、座卓を跳ねのけるようにして鈴の両肩を掴む。急な動きに一瞬足がズキリと痛んだけど、それに気を向けるゆとりはなかった。
「浩太のことは関係ないから! 鈴があいつのことを忘れてないとか――それは関係ないことだ」
――嘘つけ。
オレは自分の言葉の嘘を自覚していた。
鈴の言ったこと、きっと、全部図星なんだ。
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