29人が本棚に入れています
本棚に追加
知らず自嘲の笑みが浮かぶ。自棄になってしまったのかもしれない。
「……ねえ、鈴。あの日、優勝したらオレの欲しいものくれるって言ったよね。あれ、本気だった?」
鈴は頷きの代わりのように、ゆっくりと瞬きをした。オレは薄く笑う。
「じゃあ、それ、今くれる? 優勝はできなかったけど、もうそれは永久に無理だし。ずっとお預けってのも残酷」
言いながら、鈴のネクタイをスルリと解いた。鈴は身動き一つしない。
シャツのボタンの一つに手をかける。苦労することなく簡単に取れた。襟をはだけさせると、鈴の綺麗に浮き出た鎖骨が顕わになった。
「抵抗、しないの?」
「……透が今、本当に……それが必要なら……」
弱々しく少し震えた声。二つ目のボタンを外していた手が、ついピタリと止まった。
「なんだよ、それ……」
鈴のシャツから手を離し、そのまま拳を握った。
「鈴ちゃんにとって、これってそんなに簡単な事?」
「そんなわけ、ない」
鈴が答える。涙がその目からこぼれた。
「透だから、だよ……わたしだってどうしたらいいのか……どうして欲しいのかわからない、んだから……」
「――」
オレは、ゆっくりと鈴から体を離した。
鈴が上体を起こし、開かれた胸元のシャツを掻き抱く。
オレはそんな鈴から目を逸らした。まともに見ることが出来なかった。
最初のコメントを投稿しよう!