第3話 吹き荒れる風

22/33
前へ
/155ページ
次へ
 知らず自嘲の笑みが浮かぶ。自棄になってしまったのかもしれない。 「……ねえ、鈴。あの日、優勝したらオレの欲しいものくれるって言ったよね。あれ、本気だった?」  鈴は頷きの代わりのように、ゆっくりと瞬きをした。オレは薄く笑う。 「じゃあ、それ、今くれる? 優勝はできなかったけど、もうそれは永久に無理だし。ずっとお預けってのも残酷」  言いながら、鈴のネクタイをスルリと解いた。鈴は身動き一つしない。  シャツのボタンの一つに手をかける。苦労することなく簡単に取れた。襟をはだけさせると、鈴の綺麗に浮き出た鎖骨が顕わになった。 「抵抗、しないの?」 「……透が今、本当に……それが必要なら……」  弱々しく少し震えた声。二つ目のボタンを外していた手が、ついピタリと止まった。 「なんだよ、それ……」  鈴のシャツから手を離し、そのまま拳を握った。 「鈴ちゃんにとって、これってそんなに簡単な事?」 「そんなわけ、ない」  鈴が答える。涙がその目からこぼれた。 「透だから、だよ……わたしだってどうしたらいいのか……どうして欲しいのかわからない、んだから……」 「――」  オレは、ゆっくりと鈴から体を離した。  鈴が上体を起こし、開かれた胸元のシャツを掻き抱く。  オレはそんな鈴から目を逸らした。まともに見ることが出来なかった。
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加