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後悔が、怒涛のごとく襲ってくる。
間違いなく、自分の行為は、そして言葉は鈴を傷付けた。
一番傷付いて欲しくない人を、オレ自身が傷付けた。
「……ごめん。わたし、帰るね」
バタバタと鈴が帰り支度をする気配がする。それでも、鈴を振り返ることができなかった。
謝らなければいけない――そう思うのに、体が動かない。言葉が出て来ない。
「これ、ノート。透が休んだ日の何日か分、まとめてみたから、良かったら目を通してみて」
物音に紛れて、鈴の小さな声が聞こえた。
「強くなるって言ったのに……なれなくてごめんね」
そして、鈴は部屋を出て行った。
オレはどうすることもできなかった。
窓の外に稲妻が走る。ややあってゴロゴロ、と雷鳴が鳴り響く。雨風は相変わらず強く窓を叩き続けていた。
「あ……――」
ようやく、思考が動き出した。
こんな酷い天気の中、一人で帰らせるとか、ありえないだろ。
追いかけなきゃ。
でも、思い通りに動かせない足が動作を阻む。
立ち上がろうとして体勢を崩し、結局、また座り込んでしまった。
……情けなかった。
追いかけるどころか、簡単に立ち上がることさえできないなんて。
きっともう、鈴には追い付かない。こんな足では、追い付けるわけがない。
「くそ……っ」
片膝を抱えて、何度も額をそこに打ち付けた。
これまでの人生の中で、この時ほど自分を嫌悪したことはなかった。
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