第3話 吹き荒れる風

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   ***  翌日から夏休みに入るその日、みんながどこか浮かれた足で下校する中、オレは一人教室に残っていた。他にはもう誰もいない。  鈴もとっくに帰ってしまった。  オレは窓際の彼女の席に行き、腰を下ろした。 「バカみてぇ……何してるんだろ、オレ」  自嘲しつつ、頬杖をついて外を見やる。  グランドの奥の方で、陸上部の生徒が練習を始めているのが見えた。 「懐かし……」  ほんの少し前まで自分もあの中にいたのに、それもひどく昔のことのようだった。  焼け付くような日差しの熱さも、体に纏わりつく風の匂いも……今はもう思い出すことができない。  室内はただ蒸し暑く、開け放たれた窓から吹き込んでくる風は、頬を撫でてただ通り過ぎていくだけだった。
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