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地区大会の三日前。
その夜、鈴へ電話をかけた。スマホでのやり取りは普段もよくやるけど、電話で話すことはあまりない。そもそも、オレは電話は苦手だった。話をするなら絶対に顔を見ながら話す方が良い。何日も会えなかったりするならまだしも、学校ではクラスも同じなのだし。
でも、この日はすぐにでも報告したいことがあったのだ。文章ではなく、きちんと自分の口から伝えたかった。
逸る気持ちで繋がるのを待つ。数秒の呼び出し音さえももどかしい。だから、『ハイ』という鈴の声が聞こえた途端、あいさつも忘れて、急きこむように言った。
「聞いて! オレやったよ!」
その勢いに呆気にとられたような気配が伝わってきた。
『な、なに、いきなり。どうしたの?』
オレは一つ深呼吸してとりあえず一旦落ち着こうと試みる。それでも、声は興奮を隠せなかった。
「今日の練習で記録更新した!」
『――えっ、すごーい! おめでとう!』
オレに負けないくらい、弾んだ声が返ってきた。
いっそう気持ちが上がる。鈴からの「おめでとう」は誰からのものよりも嬉しい。
「ありがとう」
満たされた気持ちで、腰掛けていたベッドにゴロンと仰向けになった。長い息をついて馴染んだ自室の天井を見つめる。だけど、オレの目はさらにその天井を越して、その時に広がっていた青い空を見ていた。
「跳んだ時、なんかさ……。それまでとたった一センチの差なんだけど、それだけで世界が変わって見えた。そのままずっと浮いていられるんじゃないかって……」
太陽の眩しさまで蘇ってきて、目を細める。その瞬間我に返って、苦笑した。
「――って、大袈裟すぎるけど」
話しているうちに、興奮している自分がなんだか滑稽に思えてきた。鈴の小さく笑う声が聞こえて、余計に照れ臭さが増す。
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