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「透?」
不意な呼びかけに、物思いから引き戻された。
「おー、慎吾。何?」
慎吾は教室のドアのところに立ったままで、中には入らず声をかけてきた。
「いや別に。通りかかったら見えたから。帰んないの?」
「んー、帰るよー、もう少ししたらね」
答えて再び外に目を向ける。慎吾は「そうか」とだけ答えて、そのまま立ち去ったようだった。
つい苦笑した。
こんな時、そっとしていてくれるのは慎吾の優しさだ。
オレが今、心から笑えないことをあいつは知っている。
だから、一人にしてくれる。
慎吾には全ての事情を話したわけじゃない。それでもわかってしまうのが親友なのかもしれない。
改めて鈴に思いを馳せた。
彼女は今、どんなふうにオレのことを思っているのだろう。
自分の気持ちもろくに見えない今、それを想像することはひどく困難だった。
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