29人が本棚に入れています
本棚に追加
オレはバスケットをする男をしばらく眺めていた。
その人はオレが見ていることには気付かないようで、変わらないペースで練習を続ける。
軽快なドリブル、ふわりと浮かぶようなジャンプ。
軽やかなフットワークのレイアップシュート――。
なんとなく見ていたはずが、いつの間にかそのプレイに見惚れていた。
バスケは授業と遊びでしかやらないし、そこまで詳しくもないけれど、その人がかなり上手いということはわかった。
なんていうんだろう、一つ一つのプレイに華がある。
「――あ」
珍しく、彼がシュートを外した。
ゴールリングに弾かれたボールが落ちて、オレがいる方向へ転がってきた。
その人は慌てるそぶりも見せず、歩いてボールを追う。
その時になって、初めてその人がオレに気付いた。金網越しにまともに目があって、慌てる。
こっそり覗いていたようで、ちょっと気まずい。
かといって、このまま黙って立ち去るのも失礼な気がして、小さく会釈をすると、その人は軽く笑った。気を悪くしている様子ではない。
最初のコメントを投稿しよう!