第3話 吹き荒れる風

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 オレはバスケットをする男をしばらく眺めていた。  その人はオレが見ていることには気付かないようで、変わらないペースで練習を続ける。  軽快なドリブル、ふわりと浮かぶようなジャンプ。  軽やかなフットワークのレイアップシュート――。  なんとなく見ていたはずが、いつの間にかそのプレイに見惚れていた。  バスケは授業と遊びでしかやらないし、そこまで詳しくもないけれど、その人がかなり上手いということはわかった。  なんていうんだろう、一つ一つのプレイに華がある。 「――あ」  珍しく、彼がシュートを外した。  ゴールリングに弾かれたボールが落ちて、オレがいる方向へ転がってきた。  その人は慌てるそぶりも見せず、歩いてボールを追う。    その時になって、初めてその人がオレに気付いた。金網越しにまともに目があって、慌てる。  こっそり覗いていたようで、ちょっと気まずい。  かといって、このまま黙って立ち去るのも失礼な気がして、小さく会釈をすると、その人は軽く笑った。気を悪くしている様子ではない。
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