第4話 流れる雲

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 あの日以来、初めてまともに目に映した空だった。  そのまま吸い込まれそうだ。  ザクザク、と砂を踏む音に我に返る。視線を前に戻せば、男がボールを手にしてこちらの方へ歩いて来ていた。 「あっ、すみませ――」  余所見をしていたことを咄嗟に謝ろうとしたけど、彼が自分の方を見ていないことに気付き口を噤んだ。  彼はオレの隣に置いてあった自分の荷物の方へ行き、タオルを取って汗を拭った。  この人は耳が悪いという。どれぐらい悪いのかはわからないけど、今のオレの声に何の反応も見せないところを見ると、ほとんど聞こえてないのかもと思う。  彼は、荷物を挟んでオレの横に腰を下ろした。そこで改めてオレと目を合わせると、初めに見せた時と同じ温和な笑顔を浮かべた。そして、傍らの荷物の中に手を突っ込みそこから何かを取り出した。  それはB5程の大きさのホワイトボードだった。おもむろにペンをとり、サラリと何かを書いたかと思うと、オレの方へと差し出す。 「?」  首を傾げつつ受け取ったそれには、読み易いきれいな字で「狩野涼介」と書いてある。上には「カノウリョースケ」とふりがな。  どうやら名前を教えてくれたようだった。
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