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「うわ、ごめん、なんか一人で盛り上がってるね、オレ」
『ううん、そんなことないよ。わたしも嬉しいもん。本当におめでとう。でもわたし、透なら絶対にやると思ってたけど』
「うん、オレも絶対やれると思ってた」
二人でクスクス笑い合う。
『本当に、優勝もできるかもね』
そんな鈴の言葉に、オレは不敵に笑う。
「かも、じゃなくて、優勝するんだよ。地区大会優勝して、全国大会に行って……うん、そこからの予定はまだ未定だけど」
『あれ? 全国でも優勝じゃないの?』
さらりと大胆な事を鈴は口にする。さすがに苦笑するしかないけど、彼女が言うと、それすらも実現したくなるから不思議だ。
「やっぱ目指すはそれかなぁ」
もともと、オレにはあまりそういう欲がない。
過去も、大会でそこそこ良い記録を残してはいるけど、それを目標にがむしゃらになってきたわけではなかった。自分が楽しんでやっている競技に、結果がたまたま付いてきただけのことだ。
でも、今回は違う。鈴が喜んでくれるなら、はっきりと目標を持って結果を残したいと思ったりする。
そして、それだけではなかった。今度の大会には、今後の進路もかかっていた。結果次第では、陸上競技名門の大学への推薦も受けられるかもしれない。
それでも、やはりまず先に考えるのは鈴のことで、大学の推薦についてはおまけのような感覚だった。
そんな自分を自覚し、つくづく馬鹿だなぁと思う。優先順位違うだろう、オレ。
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