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「オレは――」
口で答えようとすると、目の前にペンを突き出された。書け、と言ってるのだ。ペンを取って「二条透」と書き、同じようにふり仮名を振った。
「と・お・る?」
ボードを見た狩野さんが、確認するかのように口にする。「はい」と頷くと、狩野さんはまたニコリと笑い、サラサラとボードに文字を書く。
『人のナマエはまちがいやすいから、かいてもらった方がかくじつ』
オレがそれを見たのを確認すると、また続けて書いた。
『左はほとんどダメ、右はかすかに残ってるけど、ききづらい』
自身の耳のことを言ってるのだとわかり、どう返答すればいいのか困ってしまった。そんなオレの反応に狩野さんはクスッと笑う。
『とーるはアシどうした?』
「あ、これ……」
書いた方がいいのかと思ったけど、狩野さんはボードを自分の手に持ったままだ。唇の動きでわかる、と言っていたのを思い出して、できるだけはっきりと口を動かして話した。
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