第4話 流れる雲

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「オレは――」  口で答えようとすると、目の前にペンを突き出された。書け、と言ってるのだ。ペンを取って「二条透」と書き、同じようにふり仮名を振った。 「と・お・る?」  ボードを見た狩野さんが、確認するかのように口にする。「はい」と頷くと、狩野さんはまたニコリと笑い、サラサラとボードに文字を書く。 『人のナマエはまちがいやすいから、かいてもらった方がかくじつ』  オレがそれを見たのを確認すると、また続けて書いた。 『左はほとんどダメ、右はかすかに残ってるけど、ききづらい』  自身の耳のことを言ってるのだとわかり、どう返答すればいいのか困ってしまった。そんなオレの反応に狩野さんはクスッと笑う。 『とーるはアシどうした?』 「あ、これ……」  書いた方がいいのかと思ったけど、狩野さんはボードを自分の手に持ったままだ。唇の動きでわかる、と言っていたのを思い出して、できるだけはっきりと口を動かして話した。
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