第4話 流れる雲

6/28
前へ
/155ページ
次へ
 狩野さんは頷くでもなく、ただ密やかに笑った。そして、勢いよく立ち上がりると、ボードを手にしたまま大きく伸びをする。  おかげで、それ以上を聞き返すことが出来なくなってしまった。  仕方なくオレも立ち上がった。もうかなり日も傾いている。座っていた時にはそう感じなかったけど、立ってみるとその影の長さがはっきりとわかった。  狩野さんの言ったことが気になってスッキリしないけど、いい加減、帰った方が良さそうだ。  それに、あまり長くオレがいると、この人の練習の邪魔にもなるかもしれないし。  オレは狩野さんと向かい合うように立った。 「ありがとうございました。今日はお話できてよかったです」  狩野さんは小さく頷いて、ボードに素早くペンを走らせる。 『よければ、またおいで。知り合ったのもなにかのエン。  このジカン、オレはほとんどマイニチココにきてるから』  それを見て、思わず「本当ですか?」と聞いてしまった。狩野さんは手で「オーケー」のマークを作って見せた。  それが素直に嬉しかった。オレは、またこの人と話がしたいと思っていたのだ。 「絶対、また来ます」  そう言うと、狩野さんは大きく頷いて笑った。
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加