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狩野さんは頷くでもなく、ただ密やかに笑った。そして、勢いよく立ち上がりると、ボードを手にしたまま大きく伸びをする。
おかげで、それ以上を聞き返すことが出来なくなってしまった。
仕方なくオレも立ち上がった。もうかなり日も傾いている。座っていた時にはそう感じなかったけど、立ってみるとその影の長さがはっきりとわかった。
狩野さんの言ったことが気になってスッキリしないけど、いい加減、帰った方が良さそうだ。
それに、あまり長くオレがいると、この人の練習の邪魔にもなるかもしれないし。
オレは狩野さんと向かい合うように立った。
「ありがとうございました。今日はお話できてよかったです」
狩野さんは小さく頷いて、ボードに素早くペンを走らせる。
『よければ、またおいで。知り合ったのもなにかのエン。
このジカン、オレはほとんどマイニチココにきてるから』
それを見て、思わず「本当ですか?」と聞いてしまった。狩野さんは手で「オーケー」のマークを作って見せた。
それが素直に嬉しかった。オレは、またこの人と話がしたいと思っていたのだ。
「絶対、また来ます」
そう言うと、狩野さんは大きく頷いて笑った。
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