第4話 流れる雲

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 涼介さんの練習が終われば、初対面の日のように座って「話」をした。  涼介さんは主に文字で言葉を伝えてくる。声に出すのは実は苦手なのだと言う。対して、オレは口で話をする。  文字と声のやり取り。それでもあまり不便を感じることはなかった。  涼介さんの書くボードの文字は、平仮名とカタカナが多い。漢字より書くのが早くて楽なんだそうだ。おかげで読みづらいことも多いけど、それも不便と思うほどじゃなかった。   涼介さんはわりと正確にオレの言葉を読み取ってくれる。通じなければ書くこともするけど、それもあまり多くはない。  話す内容は、本当に取り留めのない世間話。  はっきりいってしまえば、ほとんど「どうでもいい話」だ。  涼介さんは、オレよりも三つ年上だ。  それ以外のことは、まだ聞いていない。オレもわざわざ聞かなかった。  同じように、涼介さんもオレのことは何も聞かない。  でも、それでいいのだと思う。  この人と縁があるのなら、そのうち自然にいろいろ知っていくんだろう。  
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