第4話 流れる雲

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 だけど、おかしな関係だなとはつくづく思う。   お互いのことほとんど何も知らないのに、こうやってわざわざ練習を見に来たり、世間話をしたりするなんて。  しかも、知り合ってからまだそんなに経たないのに、そういった気負いや遠慮も、もう全くない。一緒にいるのは楽だった。  おかげで、いつの間にか敬語を使うこともしなくなった。  あまりにも自然に接することができるから、もう随分前からの知り合いのように錯覚してしまいそうになる。 「涼介さんって、誰にでもこんな感じ?」  ついそんなことを聞いてしまったオレに、涼介さんは微妙な表情を見せた。 『どんなカンジ?』 「えーっと、なれなれ……人懐っこい感じ?」  馴れ馴れしい、と言いかけて咄嗟に言い換える。が、すぐにゴンっと軽い拳骨が落ちてきた。 『なれなれしいだ?』 「言ってない言ってない!」  笑って否定するオレを睨みつけ、涼介さんはわざとらしいくらいの大きなため息をつき、サッと文字に起こす。 『どっちかというと人みしり』 「えー?」 『フツーの人に声かけるの、けっこーゆーきいるし』 「普通の人……」  何気ないその文字に、思わぬショックを受けた。  聞こえる人のことをそう言うんだったら、涼介さんは自分のことを普通じゃないって言ってるみたいだ……。
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