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『全国優勝はひとまず置いて、とりあえず地区大会だね。あと三日後かぁ……がんばってね』
オレは顔を引き締めた。
「うん。がんばる」
自信はある。それでも過信は禁物だ。鈴をがっかりさせないためにもできる限りの努力は惜しまないつもりだった。
「鈴ちゃん、期待してて」
そんなふうに言ったのは、自分を改めて奮い立たせるためだ。
『うん。期待してる――あ、そうだ!』
鈴が何か思いついたような声を上げた。
「ん、どうしたの?」
『うん。あのさ、優勝したらお祝いしてあげるよ! 透、なんか欲しいものあったりする?』
「え?」
お祝いに欲しいもの?
『なんでもいいよ。っていっても、あまり高価なものは無理だけどね』
楽しげな鈴の声に、いらないと断るのも悪い気がする。「うーん」と頭をひねらせた。
欲しいもの、欲しいもの……意外にも、すぐにそれは見つかった。
――今一番欲しいものは。
『なんかある?』
重ねて聞かれて、小さく唾を飲み込んだ。
「……欲しいもの、あるよ」
『何?』
オレはスッと息を吸い、短く答えた。
「鈴」
受話器の向こうから一瞬の絶句が伝わってくる。オレはもう一度繰り返した。
「鈴……が欲しい」
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