29人が本棚に入れています
本棚に追加
「……涼介さん。オレね、自分で言うのも何だけど、けっこう良い選手だったんだよ」
涼介さんの興味深そうな目が、続きを催促する。
自賛するようなことを言っている自分に苦笑しつつ、続けた。
「インターハイにも出場を期待されてて、自分でもその自信があったんだ。大会前はすっごい調子良くて、何の不安もなかった。イケるって確信してた。……だけど、大会の二日前に怪我して……当然、大会には出られなかった」
その瞬間を思い出せば、どうしても声が沈む。だから、あえてそれを振り払うように、冗談めいた口調でこう付け足した。
「優勝したら、彼女からお祝いもらえたかもしれないのに、それもなくなった」
涼介さんが不思議そうに首を傾げ、さらっとペンを動かす。
『おいわい、何?』
オレは涼介さんの手からボードを取り、文字で答えた。
『彼女。「優勝したらキミが欲しい」って言ってたの』
涼介さんは何度か瞬きをしつつそれを読み、苦笑しながらオレを肘鉄して、ホワイトボードにデカデカと書いた文字を眼前に突き付けた。
『バカもの!』
「健全な男子高校生です」
ボードを手で払うようにしながら笑う。
「まあ、結局はそれも無しなわけだけど。――でも、それは全然いいんだ。こういうのって、たぶん焦ることじゃないからさ」
涼介さんも小さく笑って頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!