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「怪我のこと、彼女はとても心配してくれてさ。オレが甘えられるくらい強くなるってまで言ってくれて……嬉しかったんだけど、反面、オレは彼女を不安にさせるのが嫌だった。だから、怪我する前と変わんないように過ごした。何の心配もいらない、大丈夫だよって、いつも笑ってた」
彼女の配慮を無視しているつもりはなかった。
オレはただ、鈴の心配そうな、不安げな眼差しより、以前と同じような笑顔を見ていたかった。
だから、自分も笑ってた。
「……だけど、それは結局、上辺だけの笑いでしかなかったんだ。彼女はそれに気付いてた。たぶん、慎吾だって先生だって……気付いてなかったのは、きっとオレ自身だけだ」
それだけ必死だったのかもしれない。
オレには自分のことを顧みる余裕がなかった。
足の怪我のこと、大会に出られなかったこと、進学のこと――本当は全部悔しくて悔しくてたまらなかった。
仕方ないと口では言いながら、本当は跳びたくてたまらなかった。
悔しい、跳びたい――そんな気持ちを、だけどオレは表に出すことができなかったんだ。
オレにできたのは、そんな自分の感情を押し殺して、ただその時その時を、笑ってやり過ごしていくことだけだった。それだけでいっぱいいっぱいだった。
「我慢してた、とかじゃないんだ。そうじゃなくて、オレはただ深く考えるのが怖かっただけ……」
深く考えて、悔しさに囚われてしまうのが怖かった。
そんな暗い感情に支配されるのは嫌だった。
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