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「鈴――彼女とのこともそうだ。さっきオレ、どうすればいいかわからない、途方に暮れてるって言ったけど、そうじゃなくて……」
言葉にすることで自分の気持ちが少しずつ見えてくる。
目の前の霧が晴れていくようだ。
「途方に暮れてた、っていう以前に、オレは考えるのを止めてたんだ。考えたらどうしようもなく苦しかったから、考えることから逃げて――あ」
自分の言葉にハッとした。
「そっか……オレ、ずっとどうしてここに来るんだろうって不思議だったんだけど、逃げてたんだ……」
涼介さんのバスケは、不思議なほどに惹きつけられた。
涼介さんを見ている間はほかのことを考えなかった。
上を見れば空があって、かつての空気を感じることができた。
ここに来れば、自分が輝いていられた時を思い出すことができた。
跳びたい、って素直に感じることができたんだ。
鈴との間に、何の問題もなかった頃のような自分でいることができた。
それは現実からの逃避だ。
つまり、そのためにオレは涼介さんの存在を利用していたということだ。
それに気付いて、思わず項垂れてしまった。
「……ごめん、涼介さん。オレは逃げるためにここに来てたんだ」
俯いてしまったら涼介さんには言葉が伝わらない。そうはわかっていても、顔を上げられなかった。
涼介さんに申し訳ないと思うのもあるし、自分があまりにも情けなかったから。
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