29人が本棚に入れています
本棚に追加
/155ページ
涼介さんはオレの反応を確かめないまま、ボールを手にとって立ち上がった。ゆっくりとボールをつきながらコートの中に向かい、フリースローラインに立つ。
オレはその姿を目で追った。
フワリとした涼介さんの明るい色の髪が夕日に染まり、それが風になびいて燃えているように見える。
涼介さんがボールを構えた。そして、軽く放るようにシュートを放つ。ボールはまるで吸い込まれるかのようにゴールネットに入った。
涼介さんがオレの視線を捉えて笑う。オレはその笑顔に目を細めた。
他人を「強い、弱い」という目で推し量ったことはない。それでも、涼介さんのことは強い、と感じた。
それはたぶん、自分の弱さを知っている強さなんだ。
――オレもそんなふうになれるのだろうか。
立ち上がり、今まで涼介さんが立っていたフリースローラインに向けて足を踏み出した。
杖を使わずにゆっくりと歩くオレを、涼介さんは微笑んで見守ってくれている。
「涼介さん、パス!」
涼介さんに向って叫んだ。その声が聞こえたかのように返ってくる「おっけー」という返事。直後、オレの手の中に、寸分狂わずボールが落ちてくる。
オレは感触をたしかめるかのようにボールを何度かバウンドさせると、ゴールを見据え、狙いを見定めた。
このシュートが入ったら、何かが変わる気がする――根拠のないそんな思いに、苦笑が浮かぶ。
片足に負担がかからないように慎重に膝を曲げ、伸び上がるようにボールを放った。
最初のコメントを投稿しよう!