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「――で、なにこれ?」
「だから、くまのポンさん」
「いや、ポンさんはわかるけど。こんなでかいのどうしたんだよ」
愛はよくぞ聞いてくれたといわんばかりに、両手を腰に当て、フフンと胸を逸らした。
「今日さ、そこの神社の縁日だったじゃん。ちらっと遊んできたんだけどさ、運だめしにくじ引きやったら、なんと特賞当てちゃってねー!」
その景品がこのポンさんだったという。変なところで運を使ってしまった姉に、思わずため息をついてしまった。
「よくこんなでかいの持って帰ってこれたな」
「美雪に手伝ってもらってね。でも、さすがにこれ持ったままぶらつく訳にはいかないから、早々に帰って来たってわけ」
美雪、というのは近所に住む愛と同じ年の幼なじみだ。
オレたちの会話が聞こえたのか、リビングからその美雪ちゃんが顔を出して、ビールの缶を持った手を振ってきた。
どうやら、リビングでは軽い宴会でも開かれていたようである。
そんな美雪ちゃんに笑い返して、愛とポンさんを交互に見やった。
「でも、こんなの取ってきてどうすんのさ。返せばよかったのに」
愛はぬいぐるみを愛でるような、かわいらしい性格ではない。
子どもの頃から人形遊びをするより、男の子と混じってサッカーをするような女の子だったのだ。
今でこそ女性らしい格好もするようになったようだけど、内面は昔とさほど変わっていない。ガキ大将そのままだ。
その愛が、にっこりと笑った。
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