天水綺譚

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 娘はあまねと名乗った。  水を司る天の眷属の一員とのことだったが、彼女の語る事柄は奇妙で曖昧で、弥には理解出来なかった。 「どうして己れを助けたのですか?」  問うと、あまねは困ったように眉根を寄せて微笑む。 「わたしにも良く分かりません。でも、放っておけなかったのです。地上のものに干渉してはならないというのに」  あまねは昼夜を問わず弥の傍らに居て、水や木の実を与えた。やがて体力を取り戻した弥が立ち上がれるようになると、支えるように隣に立った。 「天のものである貴方がいつまでも地上に留まっていて大丈夫なのですか?」  森を歩きながら弥が問うと、あまねは一度天を仰ぎ、答えた。 「わたしを地上に縛るものがあるのです。わたしに側にいて欲しいと、強く祈る者が。わたしもまた、その者の側にいることを望みます。この祈りのある限り、わたしは天に戻ることはないのです」  弥は驚いて隣に佇む天人の娘を見た。あまねは謎めいた微笑みを浮かべ、澄んだ水色の瞳で彼を見据えている。手を伸ばし、その頬に触れながら、弥は囁くように確認した。 「己れの側にこれからもいてくれますか、あまね」  あまねは頷いて、両腕を弥の身体にまわした。 「あなたが望む限り、お側におりましよう」  そして弥もまた、娘をしっかと抱き締めた。
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